月刊地震予報172(2024年1月20日)
千島溝域の択捉島南東沖深度40㎞で,2023年12月28日13時20分M6.5Pが起こった(図538).破壊開始の初動規模はM6.6で,初動地震断層面積は本破壊地震断層面積より1.3倍大きい.
震度分布は,北海道沿岸で震度2,東北日本沿岸の仙台湾まで震度1を記録し,千島海溝から日本海溝へ連続したSlabが震動を伝えており,その接続部の襟裳岬付近に最大震度3がある(図540).
本地震は,太平洋Slab上面が島弧地殻と衝突している千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrの太平洋Slab上面深度25㎞で発生した.非双偶力成分比は-9%でT/P=0.75の圧縮過剰で,地震断層面の走向はN76Eと海溝軸に並行し,傾斜は35SEの海洋側に傾斜する逆断層で,Plate境界面における衝突による剪断歪を解放している.
千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrでは,66個のCMT震源が北緯44.0±0.5°東経148.6±0.9°で起こっているが,2022年8月16日M5.2pからのCMT震源7個は北緯44.1±0.2°東経149.0±0.2°と数分の1の範囲に集中し(図538),連発地震となっている.この集中域には,2023年9月29日M5.9P(月刊地震予報169,2023年10月)も含まれている.

図540.2023年12月28日の千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtr深度40㎞のM6.5Pの震度分布.
千島海溝域の地震記録は,明治三陸地震1896年M8.5後の1897年11月23日M7.9・1899年5月8日M6.9からある(Seno & Eguchi, 1983).総地震断層面積規模ΣM9.2は,Plate運動面積規模M9.4の66%に達し,Plate運動歪の主要部分が地震によって解放されている(図541).時系列のBenioff図(図541左中図左端)で作図開始の1885年から1930年までは,Benioff図の左下端から右上端を結ぶPlate運動面積累積斜線に累積地震断層面積Benioff曲線が沿っているが,1930年から1950年まで静穏化してBenioff曲線の増加はなく真上に向かい,1950年から1970年まではPlate運動面積斜線に並行に増大する活動期で,1970年から1990年まで静穏化し,1990年から2013年まで活動期,2013年から静穏化している.
千島海溝域の地震活動は,ほぼ20年毎に活動期と静穏期を繰り返すが,活動期の地震断層面積はPlate運動面積にほぼ等しく,Plate運動歪が地震によって解放されているが,静穏期には地震で解放されず,そのまま蓄積されていることを意味している.弾性反発説(Reid,1911)では,地震間に蓄積した歪が次の地震によって解放され,単純な階段状のBenioff曲線になる.しかし,千島海溝域の活動期初期のBenioff曲線にそのような段差は認められない.
千島小円区とKamchatka小円区の小円中心は共通で島弧側に位置し,千島海溝軸の輪郭は太平洋側に凸の弧状を成しているので,太平洋Slabは沈込むに従いSlab面積不足が増大し,沈込めなくなる.このSlab面積不足によるSlab沈込停止が,20年毎に訪れる静穏期と考えられる.Slab沈込停止の静穏期でも南北に接続する日本海溝とAleutian海溝との境界域では,海溝軸の輪郭が島弧側に凸なため,沈込みSlab面積過剰となる.この余剰Slabが千島海溝中央部に移行してSlab不足を緩和し,Slab沈込みを開始させ,活動期になるのであろう.縦断面時系列図(図541右中)では,活動期に震源分布が北方のKamchatka小円区に広がり,この予想を支持する.
北米Plateに対する太平洋Plateの速度PC-NAは年間8.3cmであるので(図541左図右縁),20年間で16.6cm沈込毎にSlab不足による停止と活動を繰り返していることになる.16.6cmの地震断層のずれD(m)は, D = 10 0.6M-4 (松田,1975)に基づきM8.0と算出される.現在の静穏期は2013年から開始しており,2033年から活動期に入ることが予想される.静穏期直前に下部Manlte上面付近で2012年8月14日M7.7p深度610㎞(/1815>速報30</a>)・2013年5月24日M8.3P深度632㎞・2013年10月1日M6.7-np深度590㎞が発生していることは,Slab深部の沈込みによってSlab上部の面積不足が限界に達し,沈込停止に至ったと考えられる.
Slab面積不足による沈込停止のない千島海溝両端部から最も遠い千島海溝中央部では,Slab面積不足が補われ難く沈込停止している期間が長期間に及ぶであろう.沈込めなかった期間のPlate運動面積が海溝外の太平洋底の圧縮歪を増大させ,千島海溝中央部の摩擦抵抗限界を超えてM8.0以上の巨大地震が予想される.

図541.1895年以降の千島海溝域の地震活動.
震央地図(左)の左上から右下に向かう曲線は太平洋 PCの北米 NAに対するPlate運動.下縁にPlate運動のEuler極定数,右縁はEuler緯度と年間速度(cm).
Benioff図の幅は,総Plate運動面積M9.4に併せてあり,ΣM9.2の総地震断層面積は66%に達している.現在は2013年からの静穏期にある.
〇印が震源.CMT解については発震機構によって彩色し,〇印の初動震源の中心から出る直線の先端がCMT震源.数字とMは地震発生年月日と規模.
引用文献
松田時彦 (1975) 活断層から発生する地震の規模と周期について. 地震第2輯, 28, 269-283.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.
Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
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