1.2026年8月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2026年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36,2013年1月)は,日本全域で20個0.182月分,千島海溝域で2個0.010月分,日本海溝域で11個0.991月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.071月分,南海・琉球海溝域で5個0.086分であった.
最大CMTの8月23東北前弧沖浦河ofAcJUkw震源区M6.0Ps/49㎞で,他にM6.0以上のCMTは無かった.

図688.2026年8月日本全図月別.
最大CMT8月23東北前弧沖浦河ofAcJUkw震源区M6.0Ps/49㎞の最大震度は4で,北海道から東北地方北部が震度1以上が分布している(図689).島弧側に凸の千島海溝から日本海溝の会合点から沈込む太平洋底Slab過剰の襞が海溝距離最大の渡島半島の震度4を与えていると考えられる.

図689.2026年8月の最大CMT東北前弧沖浦河ofAcJUkw震源区M6.0Ps/49kmの震度分布(気象庁HPより).
2026年8月までの日本全域2年間のCMT解は403個で,その総地震断層面積規模ΣM8.9はPlate運動面積規模M8.2に対して5.335倍と大幅に超過している(図690の中図上).日本全域と千島海溝域のBenioff曲線(図690右図上左端Total/4と右端Chishima[A])は2025年7月30日M8.8の巨大な段差に隠され他の段は見え難いが,伊豆海溝域OgsIzでは,2024年末から2025年始への段・2026年初の段が認められる.琉球南海域(図690右図上左端の右側のRykNnk[D])には,伊豆海溝域とほぼ同期したBenioff曲線が2024年8月8日TrPhKysM7.0psの段から認められる.千島海溝域は,2025年に入り完全無CMTを保っていたが(図690右下地震断層面積移動平均規模areaM図右端A),5月31日に5月最大地震oAcCKsrM6.1Ps,6月22日にも6月最大地震oAcCNmrM6.0Psが続き半年ぶりに活性化し,2025年7月30日oAcCKamcM8.8・9月19日oAcCKamM7.8psが続いたが主歪軸傾斜方位に変化がなく,千島海溝域の歪の完全解放に至っていない(月刊地震予報193,2025年10月).
その活動は,静穏化の続いていた日本海溝域[B]に移り,2025年12月8日の最大地震東北前弧沖下北震源区ofAcJSmkM7.4psに続きその東方の深度の浅い東北弧沖襟裳南震源区oAcJEsで12月9日M6.0Ps・M6.5Ps・12月12日M6.8psと東北弧沖久慈震源区oAcJKj12月31日M6.0Psが起こった(月刊地震予報196,2026年1月).
2026年に入り千島海溝域の択捉沖で1月最大地震があったが,2026年2月以降CMT解の殆ど無い静穏期に入っていたが6月25日に東北前弧沖久慈ofAcJKj震源区でM6.8が再発し,7月1日には東北前弧沖大船渡ofAcJOfu震源区M6.0に引き継がれている.
千島海溝域では2026年4月11日千島海溝釧路TrCKsr震源区M5.2-to/32km,4月27日東北前弧沖浦河ofAcJUkw震源区M6.1Tr,5月13日千島海溝釧路TrCKsr震源区M4.5 to/48kmと異常静穏化の中の海溝域の正断層型CMTは,規模は小さいがSlab引き込みを示しており,千島海溝域の巨大地震の前兆と考えられる.

図690 .2026年8月までの日本全域2年間CMT解.
数字とMはM7.0以上および2026年7月のM6.0以上のCMT解発生年月日と規模.震源はCMT解規模から算出される地震断層長径円の中心(解説6.震源円表示).表示期間の地震規模が小さいのでΔM+1.0とし,長径を4倍拡大.
2.令和熊本地震RifPhKysj震源区の地震活動
2026年7月28日16時27分に7月最大CMT解 M6.8nt/13km令和熊本地震が九州小円区方位310.4°の海溝距離・深度[Slab深度]261/13[-71]kmが西南裂開九州RifPhKys震源区で発生した(月刊地震予報203,2026年8月).
地震は,Plate運動によって蓄積する歪が拮抗する地下岩石の抗力を上回ると発生する.破壊開始の始震の主歪軸傾斜方位は,蓄積した歪についての指標となる.始震の速報Prel解は2026年7月28日16時27分M6.8nt九州小円区方位313.7°海溝距離/深度[Slab深度]は277/10[-82]kmとされており,精査後の初動IM解・CMT解と大差無い.
破壊が進展し本震に至り,主歪が解放されると,それまで拮抗していた押し引き逆の歪も解放される余震に移行する.この押し引き逆極性の主歪軸傾斜方位出現が本震終了認定の鍵になる(特報4,2014年12月).
速報Prel解の主歪軸傾斜方位P75+6T166+11N316+78と精査後のIM解やCMT解の主歪軸傾斜方位との差は25°程度で,始震速報Prel解の主歪軸傾斜方位を基準とするStrainΠで本震判定できる(月刊地震予報203,2026年8月).
2026年7月・8月の西南裂開九州RifPh震源帯の速報Prel解は50個あり,始震速報解の主歪軸傾斜方位を基準とする90°以上の逆極性[StrainΠ]は,7月29日15時59分[112.4°]・20時47分[113.5°]・23時02分[122.4°],8月10日9時48分[142.7°]の4個である.

図691.西南裂開九州RifPhKys震源区の2026年7月1日から8月31日までの速報Prel解50個の主歪軸方位の2026年7月28日の始震速報解M6.8nt/10km主歪軸方位P75+6T166+11N316+78からのEuler偏角(StrainΠ).右図:縦断面図は九州小円区のみを拡大表示.震源はPrel解規模から算出される地震断層長径円の中心(解説6.震源円表示).表示期間の地震規模が小さいのでΔM+2.0とし,長径を16倍拡大.
2026年7月・8月の西南裂開九州RifPh震源帯の初動IM解は69個あり,始震速報解の主歪軸傾斜方位を基準とする90°以上の逆極性StrainΠは7月28日17時57分M4.0t[11.7°]・19時43分M3.4tr[121.4°]・7月29日20時47分M4.3tr[112.4°]・23時02分M4.3t[125.3°],8月10日9時48分M4.0tr[139.4°]・13日8時56分M4.2tr[117.0°]の6個(図692)で,3個が速報Prel解(図691)と共通し,StrainΠ差が2.9から3.6°に収まっている.

図692.西南裂開九州RifPhKys震源区の2026年7月1日から8月31日までの初動IM解69個の主歪軸方位の2026年7月28日の始震速報解M6.8nt/10km主歪軸方位P75+6T166+11N316+78からのEuler偏角(StrainΠ).右図:縦断面図は九州小円区のみを拡大表示.震源はIM解規模から算出される地震断層長径円の中心(解説6.震源円表示).表示期間の地震規模が小さいのでΔM+2.0とし,長径を16倍拡大.
2026年7月・8月の西南裂開九州RifPh震源帯のCMT解は8個あるが最小規模M4.5で(図693),逆極性StrainΠは無く本震判定に使用できない.

図693.西南裂開九州RifPhKys震源区の2026年7月1日から8月31日までのCMT解8個の主歪軸方位の2026年7月28日の始震速報解M6.8nt/10km主歪軸方位P75+6T166+11N316+78からのEuler偏角(StrainΠ).右図:縦断面図は九州小円区のみを拡大表示.震源はCMT解規模から算出される地震断層長径円の中心(解説6.震源円表示).表示期間の地震規模が小さいのでΔM+2.0とし,長径を16倍拡大.
本震判定の指標となる逆極性StrainΠが,最大初動IM解M7.1ntの2026年7月28日16時27分の1時間半と3時間後に初動IM解に,翌日・翌々日の23時間から31時間後に速報Prel解と初動IM解に認められ,最大初動IM解M7.1ntが本震で主歪が解放されたと判定できる.
3.西南裂開RifPh震源帯の地震活動
平成・令和熊本地震があった西南裂開九州RifPhKys震源区は,沖縄Trough・別府‐島原地溝帯・瀬戸内海・近畿へ連なる西南裂開RifPh震源帯に属し,南西に沖縄RifPhOkw震源区,北東に瀬戸RifPhSeto震源区・近畿RifPhKnk震源区が連なっている(解説13.震源区).この震源帯西縁の沖縄Okw震源区では背弧が拡大し,琉球列島が琉球海溝側に移動していることが衛星測距で判明しており,海溝に沿って沈込む海洋底の下に随行して来たMantleが行き場を失いSlab先端から吹き出し,大陸Lithosphereと衝突し琉球弧を海洋側に押し出していると考えられる(月刊地震予報117,2019年6月).
西南裂開RifPh震源帯の地震記録は西暦679年にまで遡り,最大規模はM7.6にも達し,活動期と静穏期を繰り返している(図694).現在は1930年以降の静穏期にあるが,現在と同様な静穏期は800年から1600年・1700年から1800年があり,その間の1600年から1700年・1800年から1930年が活動期になっている.熊本地震を含む本震源帯の九州震源区では最大で最初の679年M7.5以降,歴史地震記録が無く1600代初頭の東方震源区の巨大地震に誘われて慎ましく1619年5月1日M6.0・1625年7月21日M6.0・1723年12月19日M6.5と静穏期を脱した.
図694の表示震源904個の中でCMT解(1994年以降)157個の発震機構(解説14.発震機構)は,逆断層p型4個・圧縮横擦np型22個・引張横擦nt型90個・正断層t型41個と圧倒的な引張過剰である(図694左震央地図下凡例).M6.0以上のCMT解が9個あるが,全て引張横擦nt型である.
主歪軸傾斜方位図(図694右下)の空色△がnt型の主引張T歪軸傾斜方位で,方位図の上縁と中央線に沿って分布している.三角形と分かるM6.0以上のCMT解の主引張T軸は全て上縁に揃う海溝側傾斜である.方位図の中央横実線[TrDip]は,海溝(図694左の震央分布図の青線)の走行に直交する海溝傾斜方位で,紫色折線SubはPlate運動方位である.主引張T歪軸方位が中央付近のPlate運動方位と上縁の逆方位であることは,南海Troughおよび琉球海溝に沿うPhillipine海Plate運動方位に揃っていることを示している.厳密には紫折線より一目盛り(30°)程度下にずれているのは引張型破壊に予想される緯度程度時計廻りのCoriolis力に由るであろう(新妻,2024).発震機構は,Plate運動によって集積した引張歪よる西南裂開RifPh震源帯の破壊を示唆している.

図694.西南裂開RifPh震源帯の550年以降2026年8月31日までの地震活動.震源はCMT解規模から算出される地震断層長径円の中心(解説6.震源円表示).表示期間の地震規模が小さいのでΔM+1.0とし,長径を4倍拡大.
震源深度は浅く,島弧地殻が破壊していると考えられる.時系列図において大小の震源円が縦に並んで見えることは,ほぼ同じ所を震源として繰り返し地震が起きていることを示している.この繰り返しは,不均質な島弧地殻の弱線に沿って破壊するからであろう.
M6.0以上のCMT解の発震機構(解説14.発震機構)が正断層t型でなく引張横擦nt型であるのは,Plate運動に沿う主引張歪軸に直交する主圧縮歪軸は本来なら上下方向を向き正断層t型になるが,本震源帯を内海や低地帯に沈降させている下方への引張歪に相殺され主中間N歪軸と主圧縮P歪軸が入れ替り(月刊地震予報87,2017年1月),引張横擦断層nt型になっている.
近年,胆振地震(月刊地震予報109,2017年10月)や能登半島地震(月刊地震予報173,2024年3月)など稀発地震(月刊地震予報81,2016年7月)が大地震となり甚大な被害が出ている.西南裂開地震帯も静穏期にある中で平成・令和熊本地震が起こっており,世界で最も詳細な日本列島の地震記録を活用し,Plate運動やSlab下の随行Mantleが担っている海陸分布への役割についても検討が必要であろう.
引用文献
新妻信明(2024)Coriolis力の発震機構解への影響.地球惑星合同大会,SSS05P22.
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